2016年2月4日木曜日

ある視覚障碍者の読書方法と、電子書籍の問題とその解決

今回は、視覚障害者である私がどのように本を読んでいるかを紹介します。また、読書で困っていることを吐露します。読者を思う心ある出版社と電子書店さんには、みなに等しく読む権利を与えていただきたいと望むばかりです。

■電子書籍はすばらしい

なんといっても、電子書籍のおかげで読書の幅が一気に広がりました。紙の本の時代には、私はほとんど仕事に関係する技術書を読むばかりで、たまに自己啓発のためにビジネス書を読むくらいでした。

電子書籍にはまっている今は、技術書とビジネス書に加え、小説や伝記、エッセイなども読むようになりました。最近は、高校生のときには見えないために読めなかったロードス島戦記シリーズ十数冊を、ふとんの中でわくわくしながら読みましたね。いい時代がきたものです。心の支えになるかもしれないと、新約聖書までiPhoneに入れてあります(まだ開いてすらないですが)。

私の電子書籍の読み方は2通りです。1つは、iPhoneでスクリーンリーダーのVoiceOverを使って、合成音声で本を聴くことです。ほとんどの本はパソコンからAmazonで買い、iPhoneのKindleアプリで読みます。たまにiPhoneからiBooks Storeで本を買い、iPhoneのiBooksアプリで読むこともあります。

もう1つの方法は、パソコンから電子書店でPDF形式やEPUB形式の本を買い、パソコンのスクリーンリーダーを使って、合成音声で本を聴きます。そのとき、ダウンロードした電子ファイルをAdobe Acrobatなどのソフトで開いてテキスト形式(.txt)で保存し、それをWindowsのメモ帳で読みます。Acrobatで読んでもよいのですが、メモ帳のほうが操作の反応が軽快なのです。

それにしても、AmazonのKindle本やAppleのiBooks本を買うのは、とても簡単です。本の紹介ページにあるボタンを1回押せば、iPhoneに本がダウンロードされるのですから。私は中毒ぎみになっています。電子書籍のおかげで、本の虫になった人も多いのではないでしょうか。

■電子書籍がなければ自炊で

読みたい本が電子書籍として提供されていないこともしばしばあります。特に、10年以上前に出版されたようなふるい本です。そのような紙の本はAmazonで注文し、自宅に届いたら自炊します。

自炊とは、釜に本を入れて水を注ぎ、ぬかを洗い落として炊飯器で・・・。いえ、違います。

本の自炊とは、文書スキャナを使って紙の本を電子データにすることです。電子データにすれば、パソコンでスクリーンリーダーを使って読めます。

具体的な自炊のやり方を、動画を交えながら紹介しましょう。まずは裁断機を使い、1ページずつに本を分断します。

ちなみに、上の動画で私が使っている裁断機は、2万円くらいだったと思います。300ページ程度の本なら、1回の裁断ですみます。より分厚い本だと、手で200、300ページずつくらいにちぎり分けてから、それぞれを裁断する必要があります。

次に、裁断した本を文書スキャナで読み込み、画像ファイルとしてパソコンに保存します。私は文書スキャナとして、コンパクトかつ高速で人気の高い、富士通(PFU)製のScanSnapを使っています。次の動画はスキャン操作の様子を示します。

このスキャン操作は、なかなか骨の折れる手作業です。裁断した本を丸ごとスキャナのトレイに置いて、一度にすべて自動でスキャンできればよいのですが、そうはいかないのです。多くのページをスキャンしようとすると、すぐに紙がスキャナに詰まってしまいます。詰まった紙はくしゃくしゃになってしまい、その折れ目のせいで、この後でうまく文字を読み取れなくなります。そのため、私は5~10ページずつスキャンします。その間、ずっとスキャナの前に張り付くわけです。

最後に、スキャンした画像ファイルすべてをOCRソフトに読み込み、一気にテキストファイルに変換します。私はOCRソフトとして、メディアドライブ社のe.Typistを愛用しています(Amazonでダウンロード購入)。文字の認識率は、体感では9割くらいでしょうか。プログラムのコード例や日本語書籍内の英語部分はなかなかうまく文字になりませんが、英語のみの洋書や日本語の読み取りには満足しています。

これら一連の自炊手順にかかる時間は、だいたい次のとおりです。本の版型によって時間が異なります。

  • スキャナでの紙の画像化: 100ページあたり7分
  • OCRソフトでの画像の読み込み: 100ページあたり3~4分
  • OCRソフトでの画像のテキスト化: 100ページあたり2~6分

■電子書籍の問題: 固定レイアウトとDRM

視覚障害者としての立場からは、困ることが2つあります。1つは、固定レイアウト型の電子書籍であり、もう1つはDRMです。

電子書籍の内容の配置方法には、リフロー型と固定レイアウト型の2種類があります。リフロー型の電子書籍は、文字の大きさやフォント、行間を変更できるものです。デバイスの画面サイズに合わせて行が折り返されたりします。テキストデータを含むため、スクリーンリーダーで読み上げられます。

一方、固定レイアウト型の電子書籍はしばしば紙面のスキャン画像のみで構成されており、テキストデータを含まないため、スクリーンリーダーで内容を読み上げることができません。固定レイアウト型は雑誌や写真集、漫画などのように、文字や画像の大きさや配置を常に同じにしておきたい書籍のために用意された配置方式です。

文字が主体の技術書やビジネス書はリフロー型であるべきですが、固定レイアウト型で作られているものがけっこうあります。Amazonは、個人が作成する文字中心の出版物については、リフロー型にするよう審査で厳しく指導しているそうです。しかし、大手の出版社に対しては、そのようなチェックはしていないのかもしれません。残念なことです。

次はDRMです。DRM(Digital Rights Management)はデジタル著作権管理のことで、書籍や音楽、ビデオなどのデジタル・コンテンツの違法コピーを防ぐための仕組みです。DRMは、コンテンツの配信先デバイスでのみ、そのコンテンツを使えるようにします。

DRMが電子書籍のコピーをできないようにすると、とても不便なのです。たとえば、書籍での学習と並行して、インターネットで調べたいことはよくあります。難しいことを勉強する場合、本のあちこちに移動して読みたくもなります。そのようなときはパソコンのほうが使いやすいのです。また、英語の本を読むには、パソコンのスクリーンリーダーのほうがずっと聴きやすいです。

本の中で大事な部分は、別のテキストファイルに抜き出しておき、後でそれを見返して理解を深めたくもなります。ところが、パソコン用のKindleリーダーアプリでは、スクリーンリーダーで日本語を読み上げたり、テキストを洗濯してメモ帳にコピーしたりはできません。

■問題を回避する方法はあるが・・・

実は、先述の問題は、技術的には回避できます。固定レイアウト型の電子書籍をパソコンにダウンロードし、PDF形式に変換して、それをOCRソフトで読み込んで、画像内の文字を抽出してテキストファイルに保存するのです。電子書籍のファイル形式を変換するには、Calibreなどの無料の電子書籍管理ソフトが利用できます。

しかし、DRMがあると、そのままではCalibreには本の内容を読み込めません。DRMつきの電子書籍は専用のリーダーソフト(AmazonならKindle for PC)でないと読み込めないからです。

このようなときのために、DRMを無効にするソフトも出回っています。たとえば、CalibreにDRM除去用のプラグインを組み込むと、DRMつきの本の内容を読み込めるようになります。これで、Calibreの機能でPDFやTXT形式に変換できるのです。

しかし、DRMを除去することは違法なので、実際にはできません。著作権法の第三十条では、次のように私的使用のための複製は認められています。このおかげで自炊ができるのです。

 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

この中の「次に掲げる場合を除き」がクセモノです。私的複製が認められないケースの1つとして、次のような第三十条第一項第二号が記されています。

技術的保護手段の回避(第二条第一項第二十号に規定する信号の除去若しくは改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うこと又は同号に規定する特定の変換を必要とするよう変換された著作物、実演、レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは影像の復元(著作権等を有する者の意思に基づいて行われるものを除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によつて防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によつて抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになつた複製を、その事実を知りながら行う場合

ここでの「技術的保護手段」には、電子書籍のDRMも含まれるでしょう。それにしても、法律の文章は長くてわかりにくいですね。

■書籍に望むこと

まず出版社にお願いしたいことは、電子書籍を増やしてほしいということです。新しい書籍は電子形式、特にKindle本としても提供されてきているように感じるので、喜ばしいかぎりです。できれば、古典的な名著も電子化して販売していただきたいですね。たとえば、Amazonの「オールタイムベストビジネス書100」で紹介されている書籍の中には、電子化されていないものがけっこうあります。

文字中心の電子書籍は、必ずリフロー型にしていただきたいです。AmazonやAppleなどの電子書店には、出版社が不適切に固定レイアウトを使わないよう指導することを望みます。さもないと、現在の法律のもとでは、視覚障害者は、本来なら読めるはずの電子書籍を読めません。

最後に、出版社と電子書店には、DRMをやめるよう互いに協力していただきたいです。消費者が簡単にDRMを回避できる手段がある以上、実質的にDRMの効果は充分にはありません。DRMは消費者に不当な不便を強いるばかりか、視覚障碍者からは読む権利をも奪います。消費者が読む権利や私的複製というごく自然な権利を行使しようとすれば、DRMは彼らに(意図せずに)法を犯させてしまうだけです。

これは音楽業界がたどった道でもあります。次の記事で解説されているように、消費者はDRMつきの音楽CDに大きな反発を示しました。また、スティーブ・ジョブズはDRMの無意味さと撤廃を音楽業界に訴えました。その結果、音楽業界はCDからDRMを削除し、AppleはiTunes Storeのすべての曲をDRMフリーにしたのです。

津田大介氏:「EMIは打つ手がなかった」――DRMフリー化と「CCCD」という無駄 そして日本は
http://www.itmedia.co.jp/anchordesk/articles/0704/09/news013.html

2016年2月3日水曜日

私がこのブログを始めるきっかけ

はじめまして。初めてブログを書いています。実は、Bloggerでブログを開設して、10名ほどに名刺でURLをお知らせしてから、もう5ヶ月にもなります・・・。すみません、ようやく重い腰を上げました。

このような体たらくの原因は、私が文章を書くのが苦手で筆不精なことです。学校の課題や仕事、自発的な企画以外では、自ら進んで文章を書くことはほとんどありませんでした。そのため、最初のうちは文章が拙いと思います。執筆のペースもカタツムリかもしれませんが、気長にお付き合いください。

さて、記念すべき最初の投稿では、そんな私がユニバーサルデザインやアクセシビリティ、支援技術をテーマにしたブログを始めようと思った理由をお話します。ざっくりとは次のようなことです。

■視力が衰えて、不自由に立ち向かう必要性が強まった

私が抱える網膜色素変性賞という病気は、かなりゆっくりとした視力低下を伴います。中学のときまでは視力は0.1ありました。0.1だと、裸眼でも辞書を読めます。テレビゲームも好んでやりましたね。昼よりも夜のほうが外はよく見えた気がします。

今は数値にできるほどの視力はなく、光を感じる程度になりました。暗いところではまったく周囲が見えず、一人で夜道を歩くのは難しいです。ごく最近は、昼間でも白線を見失い、歩道から車道に出てしまうこともあります。正直、怖いです。

その結果、単独行動をするときに、よりいっそう不自由と危機感を覚えるようになったのです。もし妻や子供が病気になり、私が食料や薬を買いにいったり、料理や看病をしたり、病院へ見舞いに行くことを考えると、いろいろなことを独力で、かつ安全にこなさねばなりません。父は簡単にはくたばれないのです!

■自分や他人の役に立ったり、楽しみを生み出す仕事をしたい

数年前から妻や知人数名に、こんなことをいわれてきました。「あなたには目が見えないという『特徴』があり、せっかくIT企業に勤めているのだから、ITで目の見えない人たちの役に立つものを作ったほうがいいんじゃないの?」 私は「そうだよな」とぼんやりと思うくらいでした。

ところが昨年から、障害者に役立つものを作る仕事をしたい、と強く思うようになりました。できれば障害者だけでなく高齢者、さらには健康な若い人にも役立ったり、いっしょに楽しめるものを。

思いが強まったきっかけは、会社の組織変更です。それまでの仕事であるデータベース・ソフト開発、特にPostgreSQLの開発とオープンソース・コミュニティでの活動にはやりがいを感じていました。しかし、「データベース一筋ではいけない。いつまでもこの仕事を続けられるわけでもないだろう。データベースの世界にはすごい人はいくらでもいる。自分らしさを探求せねば」と考えを改めたのです。

それからというもの、自分が感じる不自由に向き合いながら、障害者の困りごとの解決や楽しみに直接つながるものを生み出すことを一生の仕事にしたくなりました。そこに自分の独自色を追求したほうがいい、と思ったのです。アクセシビリティや支援技術についての展示会やセミナー、学会に参加するようにもなりました。

今から新しい仕事に挑戦するのは容易ではないかもしれません。でも、年金だけで生活できるかが心配な老後を想像すると、職業人生は80才まで続くと考えたほうがよいのではないかと思います。であれば、1つの仕事にとどまることのほうがリスクが大きいでしょう。

■技術の進歩とMAKERSブームがものづくり心を刺激

各種の技術が身近になったことで、アイデアと熱意があれば、個人がいろいろなものを作れる時代がきました。スマートフォンに始まり、3Dプリンタ、さまざまなセンサー、触覚技術、ウェアラブル機器、AI、ロボット、オープンソース、クラウド・・・。ソフトウェア技術者である私は、やはり何かを作りたいのです。

私が特にやってみたいことは2つです。1つは歩行者支援。盲導犬の代わりになるロボットや、めがねからの映像をもとに遠隔の人に案内してもらうシステムです。

もう1つは、聴覚と触覚を活用してロールプレイング・ゲームを遊べるようにすることです。視覚障碍者専用ゲームではなく、かつて遊べたドラゴンクエストやファイナルファンタジーを、再びプレイしてみたい。オンラインRPGの世界を、他の人たちと自由に冒険できるのは、いったいどれほど楽しいことでしょう。

■ものづくりで活躍している視覚障碍者たちに感銘を受けた

私が特に関心を持つITや玩具の分野では、私より目が見えないながらも、ものづくりで活躍されている人たちがいます。日本IBMの浅川智恵子さんとGoogleのT.V.Ramanさんは、アクセシビリティの研究者です。

タカラトミーの高橋玲子さんは、健常者と障碍者がいっしょに遊べる「共遊玩具」を企画されています。日本で初めて音声ワープロを開発された長谷川貞夫さんは、80才を超えた今もなお、体表点字の普及やスマートフォン向けアプリの開発に挑戦しています。自分も彼らのように活躍できたら、と願うばかりです。